西麻布で味わう福岡の一流、小料理バー「酉卯」
福岡から唐津、長崎、五島へと至る玄界灘の海の幸。近年は、醤油や日本酒などでも高名な糸島地方の里の幸。近隣の阿蘇や霧島などから届く、上質な山の幸。
四季折々の自然の恵みに腕を振う九州の料理人たちが、絶大の信頼を寄せるのが九州一円に上質な酒を届ける「住吉酒販」の存在だ。最近は首都圏へも進出し、九州のテロワールに培われた上質な日本酒を数多く紹介している。
一方、博多の地にありながら、全国随一の居酒屋という名声をほしいままにするのが「田中田」だ。酒以外、すべてのメニューにプライスがなく、「好きなものを好きなだけ」というキャッチフレーズ通り、その季節に最もおいしい肴を存分に味わえる居酒屋の頂点だ。2014年6月には、東京西麻布にも出店。開店まもなく、予約が取れない人気店となった。
そんな「住吉酒販」と「田中田」、福岡の人気店が西麻布で新たにタッグを組んだ、伝説の幻獣の名を持つ「酉卯(とりうさぎ)」。かつて霞町と呼ばれた大人だけの街、西麻布がもう一度輝き始める時が来た。
大正3年創業の住吉酒販は、Field to Table(土から食卓へ)をコンセプトに、単に酒を届けるのではなく、海や山、川や田畑で育まれ、誠実な生産者たちによって造られたものを、食卓に繋げてきた。
近年、東京でも入手困難な「田中六五」の立ち上げに最初から関わり、福岡のプライドともいうべき銘柄を生み出した影の功労者も住吉酒販だ。糸島・白糸酒造の8代目田中克典氏と住吉酒造3代目庄島健泰氏との出会いが、今や全国随一となった「ハネ木搾り」による古来の酒造りを完全復活させ、正しい価格のおいしい名酒を生み出した。
そんな中、仕事で多くの店を回りながら庄島氏にはいつも大きな疑問があった。鮨屋や割烹以外で、選び抜かれた日本酒を楽しむ場所はないのだろうか!?シャンパーニュや、高級ワインと同じ次元で日本酒を語れる場所はないのだろうか!?
もちろん、究極の居酒屋を謳う田中田では楽しむことはできた。しかし、最高級の山海の食材を好きなだけ楽しみ、ぜいたく丼やカレーライスなどで〆ることができる田中田は、「おなかを減らしてきてください」という店の言葉通り、酒ではなく食が主役の居酒屋だ。
「どうしたらいいだろう!?」、思い切って田中(忠明)社長に相談してみる。「だったら、一緒にやろう」、社長の決断で新しい九州の奇跡が東京で歩み始める。
酉卯の誕生だ。
酉卯のコンセプトは「酒が喜ぶ小料理」、おなかいっぱいにはなりたくないけど、口寂しいのはイヤという酒飲みのわがままにとことん応える小料理バーだ。
シャンパーニュ、ワイン、ビールにハイボール、そして、もちろん日本酒。飲みたい酒は、とにかく何でも揃う。
食材はすべて、田中田仕入れなので、鮪仲卸の最高峰「豊洲やま幸」目利きの、生本鮪や、土佐あかうし、麹豚など厳選された肴ばかりだ。どうしても最後に少しだけ〆たいという呑んべえのわがままに応えるために、特上卵かけ素麺や、牛時雨煮焙じ茶漬け、そして田中田名物の焼きカレーも用意されている。黒烏龍茶カヌレから、ベイクドブルーチーズケーキ、あのminimal別注のチョコレートまで、甘味の充実も嬉しい。
シャンパーニュとワインの充実はいうまでもなく、自然派ファンのためにグラヴナーやフィリップ・バカレまでが用意されているのは心憎い。日本酒の充実ぶりは、言わずもがなだ。
「雨の西麻布」が流行る前、陸の孤島・霞町は選ばれた大人たちだけの遊び場だった。六本木には行けても、目と鼻の先の交差点にはガキは近づけなかった。角にアイスクリーム屋の行列ができて、歌のヒットで新町名がすっかりポピュラーになった頃から、いい意味でも悪い意味でも普通になってしまった街に、大人たちがもう一度復権する季節が巡ってきた。
酉卯の開店は、その記念すべき序章になるに違いない。
酉卯(とりうさぎ)
東京都港区西麻布3-24 西麻布SDビル1F
TEL:03-6804-3009